067/:/俺じゃダメですか?



野球の練習を見に来る優しい目をした少し年上の女の人。
俺はそんな彼女に恋をした。


「おい、また来てるぜ。あの人」
友達に声をかけられフェンスの方を見る。
何日か前から見に来ている女の人。ぱっと見大学生くらいかな?大人っぽくて優しそうな雰囲気の人。
んでもって俺の一目ぼれだった。
「このチームに弟でもいるのかな?」
弟ねぇ・・・。ここは少年野球チームで俺はその中でキャプテンとサードのポジションを務める小学6年生。
「翔(ショウ)聞いてきてくれねぇ?」
「はぁ!?」
「お前だけが頼りだ!!頼むぜ!キャプテン!」
俺の肩をポンポンと叩くと俺の答えを聞かずに満面の笑みで去っていってしまった。
ふざけんなっつーの!!
チームメイトに頼まれ俺はしぶしぶ彼女のいる方向に走った。
頼まれたら断れないこの性格どうかと思うんだよな、我ながら・・・。
彼女のところまで行くと俺のことをじっと見る。
近くで見るとすごい美人だと思った。
「あの・・・、」
「何かな?」
フェンス越しに俺の目線に合わせて話してくれる。
「このチームに弟さんが・・・いるんですか?」
彼女は首を横に振った。
「違うの。前にここを通りかかったときに野球頑張ってる子達がいるなぁって思ったから。・・・ダメだったかな?やっぱり迷惑だったかな?」
悲しげな顔をされ首を傾げられる。
そんな悲しい顔なんてさせたくない!
俺は必死で首を横に振った。
「全然迷惑なんかじゃないです!大歓迎です!」
彼女は優しい笑顔を向けてくれた。
「ありがとう。私は菊川 華(キクカワ ハナ)よろしくね。」
「お・・・俺は雲雀 翔(ヒバリ ショウ)です!」
「翔君ね。よろしくね。」
優しい笑顔を向けてくれる。
やっぱり綺麗だ・・・。

それから華さんは毎週のように練習の時には顔を出してくれた。
華さんは体育大の1年生でスポーツドクターを目指しているらしい。
高校生まで野球部のマネージャーをしていたらしく俺たちにアドバイスをくれた。
華さんのアドバイス、怪我をしたときの手当ては的確で、人当たりも良かったので俺たちの親や監督にすぐに気に入られた。
「菊川さん良ければここのマネージャーになってくれないかな?」
ある日練習の終わった午後、監督が華さんに声をかけた。
「え。私・・・ですか?」
驚き困ったような表情をして俺たちを見た。
「学校が忙しいのなら仕方ないけど・・・無理にとは言わないよ。」
監督の言葉に少し考え込んでいた。
俺は固唾を呑んで見守った。華さんにはマネージャーになって欲しかった。
「学校のほうは大丈夫なんですけど、私なんかでよろしいんでしょうか?」
「大歓迎だよ。皆もそうさ。」
「私でいいの?」
華さんの言葉に皆わっと喜んだ。
それを見て華さんも嬉しそうな顔を浮かべた。
皆から少し離れてみていた俺も笑みをこぼした。
ふと顔をあげると華さんと目が合った。華さんはさっき以上の微笑を俺に向けてくれた。
カァっと赤くなって、余裕がなくなる。少しだけ皆と違うって自惚れてもいいのかな?

俺がキャプテンなせいもあってマネージャーになった華さんと喋る機会がぐっと増えた。
降り積もっていく華さんへ想い。
伝えたいのに伝えられない。
俺が、華さんと同じ年なら、年上なら・・・伝えられるのかな?

練習試合の帰り、夕暮れの道路。周りには誰もいなくて。
「華さん!良ければ、来週の日曜、港の公園へ行きませんか?」
思い切ったデートの誘い。
「いいよ。今日勝ったしね!ご褒美にアイスクリームおごっちゃうよ!」
華さんからしてみればデートなんかじゃないかもしれない。
ただ、小学生と一緒にどこかへ遊びに行くっていう程度なのかもしれない。
誘いに乗ってくれたのは嬉しいけど、おごっちゃう・・・か。俺、子供だからな。
追いつくことのない年の差。
俺は何処まで行っても華さんにとっては子供なんですか?
待ちに待ったデートの日。俺は約束の時間より30分も早く来てしまった。
しかもなかなか眠れなかったし、なんだか落ち着かない。
「翔君!」
白いワンピースを翻して走ってくる華さんはいつも以上に綺麗で思わず見惚れてしまった。
「遅れてごめんね!待たせちゃったかな?」
公園の時計を見るとまだ約束の10分前。
「い・・・いえ!今着たばかりです。」
俺が真っ赤になって答えると華さんはクスリと笑う。
「そっか、じゃあ少し歩こうか。」
手を握られ、引かれるように歩き出す。
まだ、華さんの手のほうが大きい。
俺と華さんは周りから見たらどう見えるのだろうか。
恋人同士・・・には見えないだろうな。
やっぱり姉弟?それは嫌だなぁ。
俺は、この手のように守られてばかりなのか?
守ることはできないのか?
そっと、華さんを見上げるといつもと変わらない笑顔のはずなのに何か違和感を感じた。
何処か悲しそうな。
「華さん・・・」
「どうしたの?あ、ほらカモメだよ〜!!」
海にいるかもめを見てはしゃぐ。
そのはしゃぐ姿も何処か無理があった。
「お弁当も作ってきたんだよ!」
ベンチに座って出されたお弁当はとても美味しそうだった。
「味は自信ないんだけどね。」
美味しそうなおにぎり、卵焼き、から揚げなどなど。
華さんが作ったんだから不味いわけないじゃんか。
「いただきます。」
おにぎりを一つ掴んで口に入れる。
「おいしいです!!」
「そう?おにぎりなんてただご飯握っただけなんだけど。」
照れ笑いしながらも華さんもおにぎりを手に取った。
華さんの笑顔守りたいよ。
俺はまだまだ子供で、年下だけど・・・
そう思って・・・良いよね。
お昼を食べてまた少し散歩をする。
華さんは両手をパンッと叩くと嬉しそうに俺のほうを向いた。
「そうだ、翔君にアイス奢るって約束したよね!お勧めのアイスクリーム屋さんあそこにあるから買ってきてあげる。何が食べたい?」
「えっとチョコミント。」
「オッケー!」
アイス屋に駆け出す華さん。
その背中が小さく見える。
今日の華さん無理してる。
何かあったのかな?
俺が聞いても答えてくれるかな?
「おまたせ!はい。アイス!」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。」
俺が座っていた横に腰を下ろした。
「翔君は中学行っても野球するの?」
「え、はい。俺は野球大好きですから。どこまでやれるかチャレンジしてみたいんです。」
「そうなんだ。」
少し悲しそうな顔をする。なんで、俺はそんな顔をさせたくないのに。
俺、子供で相手にされないのかもしれないけど。
「翔君にこんなこと言うのも何なんだけどさ、私高校のときから付き合ってた人いたんだ。」
長い髪を耳にかけ俯いたまま、ぽつりぽつり話し出す。
「その人も野球部だったんだ。大学入ったらお互い会う時間なくなっちゃって向こうに好きな人ができてね。先週別れちゃった。その頃なんだよ、翔君たちに会ったの。」
華さんは力無く笑顔を作る。
「泣いても良いんですよ。」
俺の言葉に驚いたように顔を上げた。
俺自身も驚いていた。
こんな言葉が出るなんて。
けど、こんな痛々しく笑う華さんをこれ以上見ていられなかった。
「無理して・・・笑わないでください。俺の前で強がらないでください。」
ゆっくりはっきり華さんの目を見て言った。
「ごめんね。」
華さんはそっと俺の肩に頭を乗せる。
そして肩を静かに震わせ涙を流した。
俺はどうしたらいいかわからなくて少し慌てたけど、頑張ってそっと肩を抱いた。
「私ね・・・諦めてるんだよ。あの人の一番は私じゃないってわかってるよ。」
「大丈夫です。華さんを一番だと想ってくれる人は必ず現れますから。」
「現れるかな?」
涙で濡れた顔で俺を見る。
俺がそうです。
俺の一番は華さんです。
初めて会ったあの日から。
変わることはありません。

「俺じゃダメですか?」

無意識に俺の口から出ていた。
俺は驚き口元を押さえる。
華さんも目を丸くしていた。
「翔・・・君?」
俺は後戻りができないと意を決するとガシガシと頭を掻き華さんに向き直った。
心臓がどきどきしてる。
「あの・・・俺じゃダメですか?俺は華さんよりも年下でまだまだ子供で、至らない点も沢山あるし、華さんの彼氏に比べたらホントにガキですけど、華さんを好きだって言う気持ちは誰にも負けません!」
今の俺きっと真っ赤だ。
だっせぇ・・・。
華さんもみるみる赤くなり慌てた。
「しょっ・・・翔君!?私なの!?きっと良い人が。それに、私はまだ・・・」
「華さん以外考えられません!それに友達からでもいいです!俺、頑張りますから!」
断固として言い切る。
「俺じゃダメですか?」
華さんに近づいてもう一度きく。
「ダメじゃ・・・ないよ?私6つも年上だから・・・。」
「そんなこと言ったら俺は華さんよりも6つも年下ということになりますがダメじゃないんですか?」
「別に・・・」
「なら問題無しです。」
俺の勝ち。
俺はにこりと笑った。
「これからよろしくお願いしますね。」
「・・・ハイ」
まだ、忘れられないのなら俺が俺なりの方法で忘れさせます。

―6年後―
俺は、野球を続け、プロから指名を受けた。
そして晴れてプロ選手の仲間入り。
「翔君!」
あの日のように俺が告白をした場所で華さんとの待ち合わせ。
俺はまだ高校3年生だが、華さんはスポーツドクターになった。
美人で優しくて大人気。
俺の自慢の彼女だ。
「プロ決定おめでとう。」
「どうもっす!」
俺たちは手をつないで歩き出す。
あの頃は、華さんのほうが大きかった手。
今では俺のほうが華さんの手を包むくらい大きい。それが手を繋ぐ度に嬉しくなる。
「卒業まで気を抜かないでね、勉強。」
華さんのいたずらっ子みたいな微笑。俺が弱いの知ってて使うんだよな。
「う・・・」
勉強は苦手。まぁ、華さんがテスト前とか教えてくれて何とかここまで乗り切ってきたけど。
「まぁ、頑張らせていただきます。」
棒読みで溜息をつく。
「うん、頑張って。」
そして、今日はもう一つ頑張ることがあった。
俺は立ち止まる。華さんも立ち止まり俺に向いた。
「翔君?」
俺はあのときみたいに華さんを真っ直ぐ見つめた。
「俺・・・18になりました。プロも決まりました。何処までいけるかわからないけどこれからもずっと傍で見ててほしいんです。だから、俺と・・・結婚してくれませんか?」
俺の言葉に華さんは目を見開く。
そして、涙を流した。
「え・・・ちょ・・・俺じゃダメですか!?」
俺がおろおろしてると華さんは思い切り首を横に振った。
「ありがと、嬉しい。」
泣きながら美しく笑う華さんが愛おしくて俺は思わず抱きしめてた。
「ありがとう・・・ございます。」
「あのさぁ・・・、もう6年経ってるし結婚するんだから、敬語とさん付け禁止ね。」
見上げて微笑まれ俺は嬉しくてもっときつく抱きしめた。
「はい・・・あ、いや、ああ、幸せにするから。華。」

俺は6つも年下で至らないトコも沢山あるかもしれないけれど貴方が、一番好きで守りたい、幸せにしたい。
それは、あの日の出会いからずっと変わらず思ってきた事。


終わり
あとがき
昔、考えたネタを文章にしてしまいました(笑)
いつか書きたいとは思ってたんですけどなかなか思いつかなくてやっとこさです。
年の差とかも結構良いですよね(オイ)

2006、3、水城由羅