ごめんな、神様。
「南ちゃん、僕南ちゃんが大好きだよ。大きくなったらボクと結婚しようね」
「うん、アタシも北斗が大好きだよ」
そう言って未来を誓い合った十五年前。南は俺の一つ上のきちんと血の繋がった姉だった。
頭の良かった姉さん。文学的で美少女と呼ばれる人だった。俺はそんな姉さんが本当に大好きで、兄弟以上の感情を持っていた。姉さんも同じ思いを持っていてくれていたけど、頭の良かった姉さんは6歳にして禁忌の恋愛に気付いていたんだろう。俺と接する時は一生懸命隠してはいたが辛そうな顔をしていた。それに気付いたのは俺がもう少し大きくなってからだった。
そして、その将来の誓いを立てた次の日、姉さんは死んだ。交通事故だった。姉さんは青信号を渡っていたのにそこに車が突っ込んできた。姉さんは綺麗だった。打ち所が悪かっただけらしい。姉さんと一緒に寝る前に読んでもらっていた白雪姫や眠り姫のように王子様の口付けで目覚めるんじゃないかと思った。でも、現実に生き返るなんてありえない。5歳ではあったけど俺はわかっていたんだ。神様は俺たちの恋に怒り裁きを下したんだと思った。葬式の間中泣いている両親を見て俺たちはしてはいけないことをしていたんだと幼いながらにやっと気付いた。俺は泣かなかった。いや、泣けなかった。涙一粒でなかった。姉さんが白い煙とともに空に昇ってしまっても、もう会えないって心の中で思っても泣けなかったんだ。俺のせいだから、俺が泣くなんて許さされない。俺が姉さんの未来を奪ってしまった。俺が両親から大事な姉さんを奪ってしまった。俺が姉さんを好きになりさえしなければ。両親が泣くことも姉さんがこの世からいなくなることもなかったんだ。
それから15年泣いてはいない。姉さんが死んでからまもなく弟が生まれた。その2年後にもう一人また弟が生まれた。この弟二人は写真でしか姉さんを知らないんだ。俺がこの二人から姉さんという存在を奪ってしまったんだよな。ごめんな、二人とも。
父さん、母さん、姉さん、神様、ごめんなさい…。
そして、十五年、俺の気付かないところで歯車が回り始めていた。ゆっくりと止まっていた歯車がかみ合い始める。
二十歳になった俺は大学に通いながらコンビニのバイトをやっていた。弟が二人いて学費とか両親に迷惑かけないようにするためにバイトして学費を稼いでいた。俺が姉さんを奪ってしまったから。俺は両親にも弟達に対しても罪滅ぼしをするように十五年間全てに対して一生懸命だった。俺が一生かけて四人にしなければいけない償い。すぐ下の弟・東は高校一年生になりサッカーに精を出していたし、末っ子の西也は顔も性格も姉さんに似て文学少年になっていた。
「今日、転校生来たんだ」
夕飯の席で東が楽しそうに言った。
東の横には母さんが座り、向かい側には西也と父さん。俺はその間に座りその向かい側には空席になっている椅子。十五年間ずっと…
「おい、兄貴聞いてるか?」
東の怒ったような一言で我に返る。
「え、あぁ、ごめんどうしたって?」
「だから、東兄さんの所に転校生が来たんだって」
「へぇ…」
「美人な子なんだけど…どっかで見たことあるんだよな。あの子もオレと会った時に懐かしい人でも見るような目で見てたんだ。」
「で、東兄さんはその転校生に一目ぼれしたと」
飄々と微笑みながら告げる西也に東が「そんなんじゃねー」と叫んだ。
「ただ…懐かしい気がしたんだ。しかもなんつーか兄貴と似た感じの雰囲気を感じた」
俺と似た感じ?それはどういうことなんだろう。
数日後、午前授業だった俺は家に帰りつくなり眠気に誘われベッドに倒れこんだ。こんなことめったにないのに。だんだん意識が遠くなる中で懐かしい夢を見た。十五年前の夢。俺と姉さんが二人で公園で遊んでいた。
「南ちゃん」
決して離れないように力強く手を握った。姉さんはふわりと笑う。
「北斗。もうすぐ、また会えるから」
そう言って姉さんは俺の手をするりと抜け消えた。そこでハッと目を覚ました。
「…姉さん」
目の前にあるのは見慣れた天井。姉さんが目の前にいるわけないのに。馬鹿みたいだと思い頭を軽く掻く。寝ぼけた頭を覚ますために水を飲もうと下に向かった。姉さんの夢なんて久しぶりだ。姉さんが死んですぐはよく見ていたけどいつの頃からか見なくなった。姉さんのことは片時も忘れたことなんてなかったのに見なかったというより出てこなくなったんだ。それなのになんで今更。
「ただいま!」
キッチンで水を飲んでいると、玄関から威勢の良い声が響く。東か。そういえば試験期間中とか言ってたもんな。
「おう、おかえり。」
廊下に出て東に声をかけた。
「え?」
俺は目を疑った。別に東を見て驚いたわけじゃない。東は別にいつもと変わりない。
「兄貴!この人がこの前はなした転入生。遊びに来たい。って言っていたからさ、連れてきちゃったんだ。今日で
試験終わりだし、良いよな。」
「お。おう。」
東の隣にいる女の子、姉さんそっくり、いや姉さんそのものじゃないか!
「初めまして。四方谷美波です。」
ミナミ…。名前まで一緒かよ。東は四方谷さんにリビングに上がるよう勧めていた。二人がリビングに消え、程なくして「ただいま」と静かな声が聞こえた。
「北斗兄さん?何やってんの?」
へたり込んでいた俺の目の前に西也が現れた。
不思議そうに俺をじっと見つめる。
「西也」
「玄関に女物の靴があったけどあれお母さんのじゃないよね?」
「この前、東が話してた転校生が遊びにきたんだよ」
力なく答える。西也はぱっと明るい表情になった。
「へぇ。会いに行こうっと!」
西也もリビングに入っていった。俺は、溜息を一つつくと、三人にジュースでも出そうとキッチンに戻った。
「皆、ジュース用意したぞ。」
ジュースを持ってリビングに行く。四方谷さん見れば見るほどやっぱり姉さんにそっくりだ。
「サンキュー!兄貴」
「ありがと、兄さん」
「ありがとうございます。北斗さん」
優しく微笑む四方谷さんに姉さんの面影を重ねてしまい胸が高鳴った。
「い、いや。」
四方谷さんの言葉と同時に東は変な顔をしていた。
「どうした?東」
「いや、オレ、四方谷に兄貴の名前教えてないよなって思って」
すると四方谷さんはまずったと言う様な表情をし、そっぽを向いた。俺も東も西也も眉をひそめてその様子を見ていた。
「四方谷さん?」
「あー、もう。やめたやめた!」
そう言うと四方谷さんは両手両足を伸ばした。その豹変振りに俺ら兄弟は開いた口がふさがらなかった。東の話じゃおとなしいお嬢様っぽい子って話だったんだが…。すくっと立ち上がると次の瞬間信じられないことを言い出した。
「久しぶり&初めまして!我が弟達」
俺たちは開いた口がふさがらないまま見つめていた。誰が誰の弟だって?
「北斗、忘れちゃったの?十五年前まで一緒だったじゃん」
「もしかして、姉さん?」
「ピンポーン!」
その言葉に西也がおずおずと挙手をした。
「あの、南姉さんは15年前に亡くなったと聞いているのですが」
「うん、死んだよ」
何ケロッと言ってんだ!そう、確かに十五年前に亡くなっているんだ。姉さんの葬式も覚えているし、毎年墓参りにも行っている。墓石にだって名前が刻まれているんだ。
「懐かしい感じって、四方谷が姉貴だったからなのか」
やっと話した東だが未だ信じられないというような目つきで四方谷さん、もとい姉さんを見ていた。
「でも、オレ姉貴のこと知らなかったのにな」
「東見たとき北斗に似てるなって思ったんだ。んで苗字聞いたら四守だって言うじゃない。そんな珍しい苗字うちしかないって思ったんだよね」
「それより、南姉さんは何故・・・えっと、前世と言うべきなのでしょうか?その記憶を持っているんですか?」
「いい質問だね!えっと…」
「西也です。」
「うん、西也ね」
西也にニコリと笑うと話を続けた。
「ちょっと事情があるんだよね。天国にホントに神様いるんだよ。神様が私の事情わかってくれてそれで天国に呼んだつーか、それで神様は私のために私の記憶を持ったまま四方谷美波として転生させてくれたって訳」
ちらりと姉さんと目が合う。事情?そのために神様が姉さんを呼んだ?どういう事だ?
「ま、この家にいる時は四守南ってことでヨロシクね!東はとりあえず私とタメでしょ。西也は?」
「二個下です」
「んで、北斗が…」
姉さんが俺に目を向けた。
「…五個上」
小さな声で呟きながら目を逸らした。
「あの頃は私のほうが一個上だったのにね」
寂しげに目を伏せる。俺たちは何も言えなかった。だが、姉さんはすぐにさっきと同じような明るさに戻った。
「ま、しょうがないよね!私の我侭みたいなもんだし。あ、父さんと母さんにも会いたいな。今日、夕飯食べていっちゃダメかな?」
「オレ達の姉貴なんだろ?何を遠慮することあるんだ。な、兄貴、西也」
東の嬉しそうな表情に俺たちも笑顔で頷いた。
その後、夕飯の仕度をしていると父さんと母さんが帰ってきた。やっぱり最初姉さんの姿に驚き姉さんが理由を話すと、父さんと母さんは姉さんを抱きしめ泣いていた。十五年ぶりの再会だもんな。夕飯時、俺の向かい側の空いていた席に姉さんが座った。十五年ぶりに全部の席が埋まったのだ。初めて家族六人が揃った。昔のように父さんと母さんと楽しそうに話す姉さん。外見も昔の姉さんをそのまま大人っぽくしたようだっだ。心は姉さん。だけど、ここに存在しているのは四守南ではなく、四方谷美波という別の人間。いくら心が昔のままでも俺は姉さんにもう一度恋をしてもいいのか?俺は、今でも姉さんが好きだけど、姉さんはたった一人なんだ。その姉さんは十五年前に死んでいるんだ。今ここに存在しているのは、心は姉さん、体は別人なんだ。
「北斗、バイト行くついでに南を送っていきなさい」
夕飯が終わり、バイトへ行こうとする俺を父さんが引きとめた。
「あ…あぁ」
「へぇ、北斗バイトしてるんだ。頑張ってるんだねぇ」
「あ、うん」
笑顔は姉さんそのものだ。胸が苦しくなる。君は姉さんであって姉さんではないんだろう。
バイトまでの道を二人無言で歩く。姉さんは何か言いたげに俺を横目で見ていた。
「ねぇ、北斗」
ゆっくりと優しく名前を呼ばれた。昔のように。
「私が死んだの、自分のせいだと思っていたの?」
図星の言葉に俺は立ち止まって姉さんを見た。
「さっきも言ったけどあれは、私が神様に望んだこと。神様はそのために私をあの日死なせたの」
悲しそうに微笑む姉さん。俺は自分の両手を握ってその表情をにらみつけた。
「…んで、なんで。姉さんはそんなことを頼んだんだ!」
俺は姉さんが好きだった。けど姉さんと一緒にいられれば良かった。それ以上は望んじゃいけないことだって知ったから望まなかった。なのに何故、姉さんは死んだの?
「私は、欲張りだから、北斗と兄弟という関係だけじゃ嫌だったの。本当の、堂々と周囲も認めてくれる恋人同士になりたかったの。だから私は死を選んだ。神様は、私の望みを理解してくれていたの。だから、北斗と兄弟としてじゃなく傍にいさせてくれることを叶えてくれたのよ」
そんな…。脱力感に襲われ何も言えなかった。そこまで気がつかなかった。姉さんは15年前そんなことを考えていたのか。6歳だったのに。もともと頭が良かったけどそんなことまで考えていたなんて。
姉さんはそのまま、話を続けた。
「でも逆に北斗を混乱させちゃったね。ねぇ、北斗、これだけはわかって。四方谷美波でも四守南でも変わらないよ。魂は一緒。私は、私なんだよ」
そのままにこりと笑い姉さんが近づいてきて唇にふわりと暖かいものが触れた。
「じゃ、またね!」
姉さんが微笑みながら闇夜の中へ駆けて行く。俺は暫く動けずに姉さんが去ったほうを見つめていた。
今、唇に何があたった?キスされた?
思い出したら顔がかっと熱くなった。俺はなんて馬鹿なんだ。やっぱり姉さんは俺より一歩も二歩もリードしてる。戸惑い悩むことしかできない俺。俺は、どうしたら良い?
現在の姉さんの気持ちに答えても良いのか?だって、姉さんは俺とのために死んでまで傍にいようと決心してくれたのに…俺は迷ってる。
暫くボーっとしてて十分遅刻して行ったバイトはミスばかりで店長に驚かれた。しかも、恋煩いかと冗談で訊かれ盛大に持っていた商品を引っくり返した。次の日も講義には出たものの集中できなかった。友人らはボーっとしてる俺を見て驚いていた。そんなに皆俺が驚くことが珍しいのか。そんな俺の頭の中を占めているのは姉さんだった。もう何も障害なんてないはずなのに悩んでいる自分がいる。
姉さんは姉さんなのに姉さんじゃないんだという戸惑いがあるんだ。
「ただいま」
いつものように玄関を閉める。二階からものすごい音を立て東が駆け降りてきたかと思ったらいきなりグーで殴られドアに背中を打ちつけた。
「ってー。何なんだよ」
「なんなんだよじゃないだろ。馬鹿兄貴」
東の声は怒気を含んでいた。
「姉貴から聞いた。姉貴は兄貴のことがずっと好きだったって。兄貴も姉貴が好きだったんだろ!何故今の姉貴に答えてやんねぇんだよ」
「東兄さん、そんな風に怒ってもダメだよ。北斗兄さん、父さんも母さんもリビングで待ってるよ」
リビングのドアのところでニコニコ笑う西也。
殴られて切れた口を拭うと立ち上がりリビングに向かった。リビングに行くと父さんと母さんが穏やかな顔で俺を見つめていた。
「北斗、座りなさい」
父さんに促されいつもの席に腰を下ろす。
「東君、西也君も座って」
母さんは優しくリビングのドアの前で立っていた2人を促した。2人が席に着くと父さんはゆっくり話し始めた。
「北斗、北斗と南が幼いながらに好きあっていたことは気づいていたよ。近親相姦がいけないと思わなかった。子供の恋愛に首を突っ込む権利はないからね。ただ、世間から認めてもらえない、結婚もできない、子供も産めないそれが気がかりだった。南はわかっていたんだろうね。それで死を選び、他人として北斗を好きになったんだね。北斗、お前は今も南が好きなんだろう」
優しい瞳で見つめる父さん。父さんも母さんも、俺と姉さんのことを許してくれていたんだ。
「父さん、確かに俺は今でも姉さんが好きだ。だけど、今の姉さんは四方谷美波っていう別の人間じゃないか?俺がずっと好きだったのは四守南で…」
「まぁ、確かに戸惑うでしょうね。けどね、北斗、大事なのはここよ」
そっと母さんが自分の胸に手を置いた。
姉さんが言っていた『魂は一緒』という言葉が頭の中でリフレインした。
「母さん達もあの子に打ち明けられたときちょっと驚いたわ。けどあの子は四方谷美波でもあり、四守南でもあるのよ」
「母さん」
「北斗兄さんは僕達に南姉さんのこといろいろ気にしてたみたいだけど僕達家族は誰もこの15年、僕は13年だけど、家族から姉さんを奪った悪い奴なんて思ったことなかったよ」
「西也」
「何処までいっても姉貴は姉貴。兄貴が腹くくんなくてどうすんだよ。男だろ。姉貴ずっと待ってるぜ」
最後にぶっきらぼうに言ったのは東だった。その表情は笑っていた。
「ありがとう」
皆に告げ俺はリビングを飛び出した。姉さんに今すぐ会いたくて。
スニーカーを突っかけ急いで玄関を開けた。
「あ。」
ちょうど姉さんが門の前にいた。
「ハロー。東が学校に忘れた宿題渡しに来たんだけど」
姉さんは東に渡すためのプリントを鞄から出そうとしていた。門の前に立って思い切って声をかける。
「そ、それより、姉さん、話があるんだ」
姉さんは俺を見て一瞬驚いた表情をしすぐ、にこやかに微笑んだ。
「良いよ。公園でも行こうか」
姉さんに誘われ公園まで歩く。誰もいない公園のベンチに座った。
「で、話って何かな?」
俺は姉さんの前に立ち、軽く深呼吸した。
「俺、昔からずっと、今も姉さんが好きだ。家族に向ける好きじゃなくて、恋愛として好きなんだ」
「うん」
姉さんは笑っていた。今までの微笑ではなくすごく幸せそうな微笑だった。
「15年前にね、神様が、夢に出てきて言ったの。北斗と恋をしたいなら生まれ変わるしかないって。あの頃の私はすぐに了承した。多分今そうだったとしても了承する。天国に行ったら神様はすぐに転生させてくれたわ。なんかね、南に生まれる前も南になってからも行いが良かったからこういうことができるんだって言ってた」
行いが良かったからか…俺は姉さんみたいになることができる人間なんだろうか?姉さんみたいに望みを叶えてもらえる人はこの世にどのくらいいるのだろう。
「でね、北斗!」
考えていた俺をよそに姉さんは嬉しそうに両手を差し出す。
なんだ?
「両思い記念に、ハグ!」
「え?」
「私、やっと北斗の恋人になれたんだよ。今ここに存在しててこれが夢じゃないってことを実感したいんだよ」
「わかった」
マジな姉さんの目に俺は意を決し腕を伸ばした。その瞬間。ベンチの影の茂みが大きく揺れ俺は動きを止める。すると、人影が二つ出てきた。
「東、西也!」
東が気まずそうに笑い、西也が横で溜息をついた。
「あ、あははは」
「ほらぁ、東兄さんが押すから」
「それなら西也が!」
言い合う二人を俺と姉さんは顔を見合わせ笑った。
「東、西也おいで」
手招きするとおずおずと出てきた。東と西也を姉さんの両脇に立たせる。
「んじゃ。」
「え?」
「うおっ」
「わっ」
ぎゅっと三人いっぺんに抱きしめた。姉さんはクスクス笑い、東は少し暴れていたが、俺の力に敵わないとわかると納得できなそうにおとなしくなり、西也は嬉しそうに珍しく声をあげて笑っていた。俺はと言うと、
「北斗兄さん?」
「北斗?」
「兄貴…何泣いてんだよ?」
そう、泣いていた。15年前から泣けなかったはずなのに三人の前で泣いた。嬉しくて笑顔でいるはずなのに自然と涙が零れた.
これからは皆一緒だ。もう、誰一人欠けさせやしない。今度こそ皆一緒に生きていこう。
「あのさ、15年前の約束覚えてる?」
帰りながら、東と西也の後ろを歩いていると姉さんに唐突に訊かれた。
「覚えてるさ」
『結婚しよう』だろ。忘れるはずがない。
「来月16になるんだけど」
「とりあえず、俺が卒業して就職するまで待ってくれ」
姉さんはいつからこんなに積極的な人物になってしまったのだろう。でもま、俺の恋人になるために『死』を選んだあたり昔から積極的だったのかもしれないな。
「約束守ってくれるの?」
「ああ。絶対守ってやるさ」
ふっと笑うと瞬間姉さんにキスをした。俺はしてやったりという顔で走り出す。姉さんは一瞬呆然としていたが見る見るうちに真っ赤になって怒鳴った。
「北斗ぉ!」
何事かと驚いた東と西也が振り返り姉さんを見る。
「どうしたんだよ。兄貴、姉貴」
「なんでもねーよ。さ、早く帰ろうぜ」
東と西也は訳がわからないというような不思議そうな表情をし顔を見合わせたが横を走り去る姉さんの嬉しそうな顔を見ると笑いあい走ってきた。
「なんか兄貴も姉貴もガキみてぇ」
「そうだね。でも、良いんじゃない」
二人の会話が後ろから聞こえる。
15年前姉さんを奪ったんだと恨んでごめんな、神様。俺たちは貴方のおかげで今、幸せだ。
4年後、俺たちは小さな教会に来ていた。
「うわぁ、ドキドキすんなぁ」
「何言ってるんだよ。東兄さんの結婚式じゃないだろう」
緊張してウロウロする東に西也が突っ込みをいれ俺は笑った。
「北斗。やっと夢が叶うね」
母さんが嬉しそうに微笑んだ。俺たちは今日24年間の夢をかなえる。
姉さんは4年前のあの日帰ってからすぐ四方谷の両親に全てを話したらしい。二人は驚いたが全てを受け入れ抱きしめてくれたと聞いた。そして姉さんは嬉しそうに「私には両親が二人ずついるのよ」と言っていた。それから家族ぐるみでの付き合い。四方谷の両親も俺を優しく受け入れてくれた。
「花嫁さんの用意ができましたよ」
花嫁の控え室から係員の人が出てきた。
俺たちは緊張しながら控え室に入る。
そこには真っ白なウエディングドレスに身を包んだ姉さんが佇んでいた。姉さんは振り返ると呆然としている俺たちに向かってにこりと微笑んだ。
「南姉さん綺麗だよ!」
最初に口を開いたのは西也、その言葉につられるようにして我に返り続けたのは東だった。
「姉貴…綺麗だ」
「ありがとう、西也、東。で、」
呆然としたままの俺をにらみつけ姉さんは近寄った。
「北斗クンは何か感想ないのかなぁ?」
「え…」
ちらりと東と西也を見るとニヤニヤとしていた。
はぁと溜息をつく。
「綺麗だよ、姉さん」
本当は綺麗という言葉だけじゃ言い表せないんだけど。だが、姉さんは眉をしかめた。やはり言葉が足りなかったのか?姉さんはへの字に曲げた口を開いた。
「姉さんじゃないでしょう!」
参ったな、姉さんの上目遣いには弱いんだ。
「昔は南ちゃんって呼んでくれたじゃない」
目を潤ませる。俺はまた、はぁと溜息をついた。姉さんには勝てないな。
「綺麗だよ…ミナミ」
俺にとっては南でもあり美波でもあるから。
姉さん、いやミナミは満足そうに微笑んだ。
「あ、姉貴目薬持ってる」
小さな声で東が呟く。ミナミはキッと東を睨み西也が東の脇を突いた。
「東兄さん!」
まぁ、そんなこったろうと思ったよ。
「皆さん、そろそろ式場のほうへどうぞ」
係員がドアを開け告げると東と西也は走って出て行った。
「北斗」
「ん?」
「今日のバージンロード。パパとお父さんと歩くからね」
「わかってるよ」
パパというのは四方谷のお父さん。お父さんは俺たちのつまり四守の父さんのこと。これは式前から決まってたけどミナミは嬉しそうに告げた。
「さぁ、行こうか」
ミナミに手を差し出す。
「うん、幸せにしてね」
そっと俺の手をとる。
「勿論」
手をしっかりとつなぎ俺達は式場へと向かう。
もう決してこの手を離さない。
そっと空に向かって心の中で呟く。
なぁ、神様俺たちは多少遠回りしちまったけどこれで良いんだよな?神様はこれを望んでいてくれたんだよな。
俺たちにこんな幸せをくれてありがとう、神様。
終わり
後書き
久々更新ですみません。
投稿用のが手一杯でなかなかこっちまで回らず…今回のは投稿してボツったやつです。
近親相姦ネタ?僕は姉に恋をするみたいな…ツッコミどころ満載だと思いますがビシッと突っ込んでやってください(笑)
2007,3、水城由羅