カシス


仕事から疲れて帰って来ていつものようにポストを覗くとダイレクトメールや近所のピザ屋のメニュー、新聞の他に懐かしい幼なじみから手紙がきてた。
お風呂から上がり、冷蔵庫からお気に入りのカシスの缶酎ハイを取り出す。缶を開けながら手紙の置いてあるテーブルに座った。
手紙を手に取り封筒を開ける。出て来たのは何枚かの手紙と一枚の写真。
写真には幼なじみ、友人、そして二人の子供。男の子と女の子で二人に似ていた。
カシスの缶酎ハイを一気に喉に流し込む。シュワッとした炭酸が今はもう諦めた恋を思い出させた。

家が隣同士で幼なじみとして育った修治。ずっと野球をやってて高校も野球部だった。私は、マネージャーをやってた。修治がずっと好きだったから。
少しでも近付きたくて、傍にいたくて。
近所の学校との練習試合の時、私はその学校のマネージャーと仲良くなった。優しくてちょっとおっとりしてるけど気の利く可愛いこ。私なんかと正反対だって思った。よく遊ぶようになって、ある日きかれた。
「晴香ちゃんは好きな人がいるの?」
「え・・・なんで?芳野はいるの?」
私が聞き返すと芳野は顔を真っ赤にしてゆっくり頷いた。
「私・・・川越君が好きなの・・・晴香ちゃん幼なじみなんだよね?」
川越・・・その名前聞きたくなかったな。修治が好きなんだ。
「彼女いるのかな?」
私は無理矢理笑顔を作る。「あいつ野球馬鹿だから彼女いないよ!!」
私が言うと芳野は嬉しそうに笑った。
私はきっとこのこには勝てない。本能で解っていた。けどそれを無理矢理心の奥底に閉じ込めた。
その一週間後、修治はいつものように窓から私の部屋にやってきた。
「レディーの部屋に窓から入らないで下さい。」
冷たくあしらうが悪びれた様子など見られない。
「わりぃ、わりぃ。」
私はコイツに女の子として見られてない。って思い知らされる。
「今日は相談があって来たんだ。」
真面目な顔をして私の前に正座する。
「何よ?」
私は机の椅子に座ったまま体を修治のほうに向けた。「あのさ、この前練習試合した学校 のマネージャー。」
「藤堂芳野?」
名前を出すと「そうそう!!」と激しく頷く。
「その、藤堂の事が気になってるっーか、好きっつーか。晴香、お前仲良いだろ!?」
聞きたくなかった、そんなこと。
なんであんたを恋愛に目覚めさせたのは芳野なの?私じゃなかったの?
「晴香?」
「え!?」
我に帰ると心配そうな修治の顔。
「大丈夫か?」
「うん。」
小さな頃から何でも言い合ってきたけどこんなことは言ってほしくなかった。
「藤堂彼氏いるのかな?」
耳まで赤くして尋ねる修治。その姿が芳野とそっくりで笑えた。
「いないわよ。」
「そうか。」とガッツポーズで喜ぶ。
「さ、今日はもう晴香ちゃんの恋愛相談所は店じまい!!出てって!!」
無理矢理窓へ押しやりぴしゃりと締め出した。
「バァ〜カ!!」
私の目から溢れたものがカーペットをポツリ、ポツリと濡らした。

その後も二人からの相談を受けた。ぎこちないながらも私は相談に答えてあげた。
そして数ヶ月後二人は晴れて付き合い始めた。二人の笑顔。私はその二人に笑顔で答えられていたかな。
胸が苦しくて家で一人で大泣きした。
小さい頃に修治と夢を話し合ったことがあった。
「私は修ちゃんのお嫁さんになるの!!子供は二人。男の子と女の子。私と修ちゃんそっくりなの。修ちゃんはプロ野球の選手。私は修ちゃんを待つ奥さん。」
あの時修治は笑ってた。冗談だと思ったんだろうね。本気だったよ。その夢は今も続いてる。けどその夢も今日でおしまい。その分までたくさん泣いてしまおう。告白しとけば・・・なんていう後悔も消し去るように。心の奥底からスッキリするまで。
数年後大学卒業と同時に結婚した修治と芳野。
式場で芳野に「ごめんね。」と言われた。私は微笑むと「何が?」と軽く答えた。芳野はそれ以上何も言わなかった。私の笑顔がそれ以上の事を言わせなかった。
いくらのんびりやの芳野でも人の気持ちのわかる子だ、それに女の勘が働いて私が修治を好きだって気付いたんだろう。
でも、芳野は修治が選んだ子だから素敵な子だって知ってる。私も芳野だから修治を諦められたんだよ。
「芳野。」
「晴香ちゃん?」
「幸せになんなさいよ!!修治と喧嘩したら何時でも来て。私が修治とっちめてあげるわ !!」
芳野は笑いながら涙を流し頷いた。
あれから3年。私はOLをやっていて修治、芳野、そして二人の子供が写った写真を眺めている。幸せそうだ。修冶の目は未だに野球ボールを追っている頃のような少年みたいなまなざし。修治の子供に私の面影はないんだな。ふとそんなことを思い苦笑した。最近になると友達から旦那と二人の幸せそうな写真が増える。
そしてよく添えられるメッセージは「早くあんたもいい人見つけなさいよ〜!!」仕事が忙しくて恋する暇がないなんて言い訳ね。
そんな勇気がないのかもしれない。
もう少しみんなの恋愛を見守ってることにする。
余ったカシスの缶酎ハイを一気に飲み干し缶も手紙もそのままに私は寝室に向かった。
悲しい恋や辛い恋から逃げるように。
あとがき
高校時代文芸部用に書いたものの改良版です。
ヒスブルの「カクテル」を元にしました。大好きなんです。あの歌。
切なくて、キューンとします。
内容いろいろおかしかったらすみません。

2006、4、水城由羅