―親友じゃなくて本当は恋人としてそばにいたいの、ずっとずっと―

満開の桜の下、微笑み見つめ合う私の大好きな親友である彼と見たことのない美しい美少女。
白拍子の着物を着ている。きっと女性の白拍子−舞手なんだ。そう、美しい舞姫。
あぁ、この二人は結ばれるんだ。
…私の夢見の力がそう告げている。大好きな彼が幸せならそれで良い。
私は想いを閉じ込めて…

桜恋愛夢絵巻




「尼僧になった?」
親友の言葉に表情も変えずただ頷いた。
「何故?」
親友は眉をひそめる。私は無表情のまま続けた。
「なんとなく。別に今まで通り戦うこともできるし能力の面でも協力できる。問題無いでしょう」
「それはそうだが・・・」
親友は苦い顔で私を見る。
「お前の兄上は・・・勇翼(サイキ)は了承したのか?」
「したわよ。ちなみに陣(ジン)様も恵麗依(エリイ)様もしたわよ」
「兄上と恵麗依様まで!?」
親友が驚くのも無理は無い。陣様はこの軍の総大将で、恵麗依様は奥さん。
まぁ、恵麗依様は私達と歳は同じなのだけど・・・。
実際に軍を引っ張っているのは陣様の1歳下の弟で私の親友のこの鈍感男・威(タケル)なんだけどね。
「おい、威、旭姫(アサギ)そろそろ作戦立てようぜ」
兄上が幕を上げ現れる。兄上は威の右腕的存在の陰陽術師。うちはそういう家系らしく私は夢見の力を持っている。
「さぁ、この話しはおしまい。お願いしますよ。威殿」
にこりと笑嫌味をこめて呼ぶと私を睨みつける威。
「俺は納得しないからな」と小さな小さな声で呟いたのが聞こえた。
納得しなさいよ。馬鹿威。

今回の戦も勝利を収め私達は都へと帰ってきた。いつまでこの戦は続くんだろう。
ふと、満開の桜の木に目をやると、その下に見覚えのある舞姫を見つけた。
「あの子・・・。」
「どうした?」
その瞬間、舞姫は桜の下で倒れ私と威は驚き、駆け出した。
「大丈夫!?ねぇ?」
抱え起こす。顔は青白くなっており反応を示さない。
瞳は長い睫毛に塞がれていた。
「よし、急いで邸に運ぼう」
威が舞姫をおぶって連れていく。
私はその後ろを複雑な気分で黙ってついて行った。
これが威と舞姫の出会いだったんだ…

私は威の邸に着くと縁側に座り、黙って庭の桜を見ていた。
「旭姫さん。横よろしいかしら?」
声をかけたほうを見ると恵麗依様が立っていた。
「どうぞ」
恵麗依様が横の座りしばらく一緒に黙ったまま桜を眺めていた。
「ねぇ、旭姫。」
恵麗依様、いや恵麗依が口を開いた。もともと恵麗依はこの都の和菓子屋の娘だった。そこを陣様に見初められ今に至るのだから運命とはまさにこのことだろう。
私と恵麗依は女同士の親友。公の場では将軍の妻と家臣だがこういう場では親友にもどるのだ。
「旭姫が尼僧になったのは夢見のせい?」
瞬間桜の花びらが風に舞った。
「・・・そうだよ」
私は恵麗依とは目を合わせず、前だけを、桜だけを見ていた。
「夢見で威の運命の相手を見てしまった。威とその人が桜の木の下で幸せそうに笑っているのを見たの。その相手はさっきの舞姫・・・」
花びらがさっきとはまた違う強い風に舞い空へ飛ぶ。ゆっくり恵麗依に顔を向けると、恵麗依はただ驚いていた。
「だから、私は尼僧になることを選んだ。私は邪魔をしないように、幸せであるように、想いを閉じ込めて」
だから泣く事もしなかった。夢を見てから一度も。
「想いを閉じ込めるなんて・・・。」
「私の夢見が一度でも外れたことある?」
私がにこりと笑うと彼女は悲しそうに首を横に振った。
「恵麗依が悲しむことなんて無いんだよ?あなたはただ私達が勝利を収めたあとの国を陣様と平和にすれば良いの。」
「・・うん」
そう・・・威の運命の相手が私で無かっただけなんだから。少し悲しいとは思うけど私は威の親友としてこれからも傍にいられるのならそれで良いんだ。
「ほら、私が笑ってるんだから笑ってよ。いや、笑いなさい」
「何それ、旭姫、命令!?」
「あ…あの!!」
お互いに笑いあっていると頭上から鈴のような声が聞こえた。
振返るとさっきの舞姫が立っていた。
「あの…助けていただいたそうでありがとうございました。」
雪のような白い肌、烏の濡れ羽色のような黒い絹みたいな長い髪、さっきは睫毛が塞いでたが、吸い込まれてしまいそうな黒真珠のような瞳、整った顔立ち。私達は思わず魅入っていた。威と運命の人。嫌な感じが全然しない子。
「…どうか…しましたか?」
舞姫の綺麗な瞳にじっと見つめられ思わず私たちは後ろに退いた。
「あの、私の名前は津嶌 李庵(ツシマ リオン)と言います。行くところも無くさまよっていた所を助けていただき本当にありがとうございました」
「う、ううん。良いのよ。私は、倫道(リンドウ)旭姫。尼僧よ。そして…」
「あたしは、鈴城(スズシロ) 恵麗依。よろしくね」
「住むところが無いならさ…」
続きを言おうとした時だった。
「俺の所にいれば良い。」
邸の奥から声が聞こえ、声の主が現れた。
「威!?」
「お前、自分のところに来れば良いと言おうとしたんだろう。お前のところは、勇翼と二人暮しじゃないか。俺はその点一人だしな」
「馬鹿?なんであんたみたいな獣と一緒に暮らさせなきゃなんないのよ」
威と李庵は一瞬顔を顰めたが、威は大笑いを始めた。
「なっ、何がおかしいのよっ!!」
李庵を置くことと大笑いにイラッとして声を荒げてしまった。
威は笑いを耐えると李庵に顔を向けた。
「いや、李庵はどうしたい?」
「貴方の、邸でお世話になります。えっと・・・」
「鈴城 威。威で良い」
「お世話になります。威」
二人で微笑み合う姿に胸の中に熱い物が込み上げる。「威」って呼び方も異性で私だけしか呼んでなかったのに。悔しい。これは…この気持ちは嫉妬?私は、尼僧なのだからこんな醜い思いは封印しなくてはいけないんだ。 でも…
「じゃ、李庵も元気になったことだし、兄上も食事を待っているから帰るね!!」
無理矢理笑顔を作りそう言い残すと、逃げるようにして家に戻った。
多分もう、威の家(ここ)には、来られない…。

あれから数週間が経った。結局一度も威の家に行ってない。行く用があったとしても全て兄上に行ってもらっていた。兄上は威の家に行く前にいつも私の頭をひと撫でして行っていた。兄上は私が威のことを好きなのを気付いていて気を使ってくれていたんだろう。ごめんなさい兄上、夢のような二人を見るのは嫌なの。
尼僧になったんだから気にすることないのに、何故だか私の心が拒否していた。
あまりに落ち込む私を心配してくれているのか恵麗依や、事情を聞いた陣様が毎日のようにやってきた。ごめんなさい、恵麗依、陣様。
私は、尼僧になり想いを閉じ込めたはずなのに。
日に日に威への想いが強くなる。私はこの想いを絶ちたいのに…
写経に使ったりしている机に突っ伏して塞ぎこんでいると背中に声をかけられた。
「旭姫…客だ…」
振り返るとそこにいたのは−
「何してんのよ」
思わず憎まれ口が出る。
「お前こそ。全然来ねぇからよ。李庵も心配してたぜ」
李庵…。威の口から一番聞きたくなかった名前。
呆れたような心配そうな表情で私をじっと見る。
「別に…。あんただってその李庵がいるから良いじゃない。あれだけ美人なんだから…」
私の心配なんてしないでよ!
お願いだから私の傍に来ないで…きっと私泣いてしまうから…
「はぁ?おい、何言ってんだよ!?」
威は訳がわからないと言うような表情で私を見る。
「私見たのよ!!威の運命の相手、李庵なんだよ!?」
そんな威に怒りを覚える。
威は目を丸くして驚いたがすぐにあの時のように大笑いを始めた。
「…なっ、何がおかしいのよ!!」
威は笑いすぎて目に涙をためている。
「お前、まだ気づいてないんだな。李庵はな…」
「威、私が言おう」
言葉とともに現れたのは他ならぬ李庵だった。
李庵は静かに私の前に座った。一つ一つの動作も綺麗で目が放せなかった。
そして、李庵は衝撃の事実を口にした。

「旭姫さん、私は…………男だ」
ん?なんて言った?今この形のいい美しい唇から鈴のような声で何て言った?
…………男?
私はしばらく黙った後、思い切り叫んだ。
きっと私の叫び声で家のぼろくなっていたところにひびがいったわね。
ごめんね、兄上。後で修繕しておいてね。
「こ、こんな美人が男〜!!?」
思わず李庵を指差し正座を崩してしまった。未だに信じられない。こんな美人が…そんじょそこらの女よりよっぽど美人な李庵が…
「あぁ、私はある男を討ち取るために女の舞姫として育てられた。その男とは威達が今戦っている相手だ。恵麗依様から聞いたがその夢は多分その男を討って勝利したときではないかと思うのだが」
李庵が淡々と喋る中私は呆然とその話を聞いていた。
それじゃあ…私の勘違い?
ホッとして涙が勝手に零れ落ちた。
「お、おい!!」
私の涙を見て慌てる威。
李庵はすくっと綺麗な動作で立ち上がる。
「ここからは威の出番だな。私は向こうにいる勇翼殿と花見でもしてくるよ。じゃあ」
李庵は怖いくらいに、にこりと笑うと出て行ってしまった。
李庵は敵に回したくない。どんなことが起こっても。
残された威は私の前にどんと、腰を下ろした。
あぐらをかいて手をひざの上に乗せてじっと私を見つめた。
「馬鹿威・・・。」
私は泣きながら呟いた。
「馬鹿とは何だ、馬鹿とは。お前こそ勘違いにも程があるだろう」
だって・・・李庵てば本当に美人なんだもの。あんなに二人で幸せそうに笑っていれば恋人同士だと思いもするわ。
「・・・で、お前が来なくなった理由と尼僧になった理由をきちんと説明してもらおうか」
「はぁ!?」
「勘違いした罰だ」
「………………威のせいだもん……」
全部私のせいなのに。小さな子のように人のせいにしてしまった。
威はため息をつき「だろうな。」と呟いた。
その言葉に「え」と驚いてしまった。本当は全然威のせいなんかじゃないのに。
「李庵にも、兄上にも、恵麗依様にも勇翼にも言われたよ。お前は鈍いって。今まで戦ばかりに気をとられすぎて大事なものに気付かず過ごしていた。いつもすぐ傍にあると思って甘えていたのかもしれないな。いなくなって初めて気づいたよ。一番大事な存在に…」
威は静かに瞳を閉じる。数分の静寂、そして何かを考えた後そっと瞼を開き私を見た。いつもと違う優しい表情に私の胸は高鳴った。
初めて見る表情だった…どきどきと心臓が煩かった。
「戦が終わったら俺と祝言を挙げないか?」
…………………はい?
かぁっと体中の血液が顔に集まり耳まで顔が赤くなる。
「えっと…誰と誰が?」
なんだか無償に恥ずかしくなって出た言葉がこれだった。自分の意気地なし加減を恨む。
威は一瞬驚いた顔をし、少し怒って立ち上がった。
「だから、お前と俺が!」
だんだん喧嘩体勢になっていく。
「はぁ!?何言っちゃってんの!?」
こうなったらもう止められない。
「お前!!もう少し空気を読め!!馬鹿か!」
私だってもう少しいい雰囲気が良かったよ!!でも、もう無理だわ!!
「だって私尼僧だよ!!無理でしょ!?馬鹿かって威が馬鹿!?」
立ち上がって喧嘩腰で言うと急に威はきょとんとした。
「還俗すればいいだろう。」
…そういえば。
「それはそうだけど…。」
思わず納得しそうになる。駄目だ!これじゃ私が負ける!
「って、なんで今更言うのよ!!馬鹿威!!」
「仕方ないだろう。気付かなかったのだから!!で、返事は!?『はい』か『いいえ』か!?」
「『はい』に決まってるわよ!!」
もう喧嘩状態の中勢いで言ってしまった。私がこれを言った時には二人とも息を切らしていた。
私って大馬鹿者だわ。
「お前って奴は・・・」
威は苦笑すると私の頭をくしゃりと撫でた。顔が真っ赤になる。実際、威のほうが大人だと思う。馬鹿なのは…私なんだと思う。
「早く戦を終わらせて1日でも早く平和な日を取り戻そうな。」
威の優しい笑顔に、私も自然と笑顔で返しゆっくり頷いた。
「うん。」

それから、戦は李庵が参戦し、李庵の軽やかさや隠密活動、威や陣様の作戦、兄上の陰陽術、私の夢見の力それが全て合わさりこちらが勝利を収めた。
こうして長きに渡った戦は終止符を打ったのだった。

―数年後―
あの日と同じように桜の花びらの舞う中、私達は花見にきた。
「廉(レン)、皇哉(コウスケ)、征護(ショウゴ)あまり走りまわってはだめよ。」
「「「は〜い」」」
楽しそうに走りまわっている三つ子。その親の陣様も恵麗依も大将軍とその妻っていう貫禄が出てきた。それでも親友のときは普通の女性に戻るのだけど。
「父上、母上!!」
私と威の真ん中で桜を見ていた優軌(マサキ)が私達を見つめた。
「「どうした(の)?」」
「今日不思議な夢を見ました。ここからずーっと後の時代です。父上も母上も僕も廉も皇哉も征護も陣様も恵麗依様も李庵殿も勇翼叔父上も皆一緒にいました。やっぱり、父上と母上は仲良しさんでした」
にっこりと笑う優軌に私達は全員目を丸くした。
「旭姫これって…」
ぎこちなく私を見る威。私は「はぁ」と溜息をついた。
「夢見の能力だわ。」
「倫道の一族で最強だな。」
兄上の言葉に頷く。優軌の無邪気な笑顔と桜を見ながら私と威は笑顔を交わした。

いつまでもいつまでもあなたと一緒にいられますように。

あの日見た桜の夢を忘れないように…

優軌が言ったようにこの先の未来もずっとずっと、貴方の隣で笑っていられますように。


終わり
後書き
はい、こんにちは。水城 由羅です。
今回の小説は高校の文芸部に出したものに少し訂正を加えてみました。
遥時空3役職被ってるなぁと思いますよね。被らせましたよ。だって、朔ちゃんポジション好きなんだもん(オイ)
九郎さんも大好きさぁ!!(ヤケクソ)
性格的には望美ちゃんと九郎さんみたいな感じになったなぁと…満足!
キャラの名前は使いまわし。普段はこいつら生徒会です。恵麗依は新聞部副部長。
旭姫は生徒会長で男子軍を牛耳っています。しかも男子軍は幼稚園から高校までの腐れ縁(笑)
旭姫と勇翼が兄弟じゃなくて勇翼と優軌が双子なんですけどね。
陣と威も兄弟じゃないし、廉と皇哉と征護も兄弟じゃありません(笑)
それでは。

2006、11、水城 由羅