―ねぇ、知ってる?
クリスマスイブに降る雪は神様が皆の願いを叶えるため天使をつかわせているんだよ―

天使の祈り



「はぁ・・・」
誰もいない公園のブランコに座りあたしは冷たくなった手に息をかけ擦り合わせた。
空を見ると曇り空。そういえば雪が降るって天気予報で言ってたな。とぼんやり考えた。
昨日から冬休みで美術部である私は外にデッサンに出ていた。クリスマスイブは人が多い。本当はイルミネーションとか描きたかったんだけど人の多さを見て無理だと思って引き上げてきた。
あの人も今頃・・・

「何暗い顔しているですか?」
横のブランコから声がしてキィとブランコが揺れたかと思ったら私の目の前に白いコートを着た茶色がかった黒い髪を二つ結びにした6歳くらいの女の子が私の目の前に立っていた。
あれ・・・人の気配しなかったよね?
「どうしたですか?」
その子は私の顔を不思議そうに覗き込んできた。
「な、なんでもないよ!!」
私は両手をブンブンと振った。
「良ければあたしに貴方が暗い表情してした理由教えてもらえませんか?」
のんびりとした口調でその子は隣のブランコに座った。
なんでこんな見ず知らずの子に・・・
と思ったけど女の子の澄んだ瞳を見てたら話しても良いかななんて思えてしまった。
「あなた・・・名前は?」
「アリア」
「アリア・・・ちゃん?私は・・・」
「那美お姉ちゃんだよね?」
「え・・・うん・・・」
ニコニコ笑うアリアちゃんに私は眉をひそめながら頷いた。なんで知ってるんだろう。
「で、教えてもらっても良いですか?」
「あ、うん・・・あのね、私好きな人いるんだ。同じクラスで剣道部の人。私美術部でね、一度コンテストに出展するためにモデル頼んだことあるんだ」
嫌な顔せずに嬉しそうにオーケーしてくれた笑顔。
「部活やってる姿だから面つけてるから表情は見えないって言ったんだ。『別に表情見えても構わない』って言ってくれたけど嬉しかったな。オーケーしてくれたの」
あの時の笑顔を思い出して私は微笑んでしまった。
出来上がるまで毎日剣道部に行ってデッサンさせてもらった。
「先生も出来上がった絵を見て今までで一番良いって言ってくれてコンクールに出展。結果はそろそろ出るんだけどね」
苦笑する私。あの絵が駄目だったらどうしよう。不安なんだ、私の恋心まで否定されたような気がして。本当は今日もデッサンって言うの口実に結果聞きたくなくて逃げてきたんだ。
あの絵を否定されたら私どうすればいいの?だって・・・
「彼女がいるのに・・・」
ポツリと呟く。
「あの人には彼女がいるんだ。小学校からの腐れ縁って言ってた。剣道部のマネやってる。私と違う美人で快活な女の子」
無理して笑う私を見透かしたようにアリアちゃんは怒ったような表情で私をじっと見ていた。
「なんで、那美お姉ちゃんはその人と比較するですか?那美お姉ちゃんは素敵です。こんな優しい絵を描けるじゃないですか!!」
アリアちゃんは私のスケッチブックを奪うとパラパラと私に見せた。
友達に頼んで描かせてもらった友達の微笑んだ顔、並木道、道端の花・・・どれも私が描いた絵。
「優しい絵です。優しい塗り方です。那美お姉ちゃんは優しくて細やかで道端の小さな名もない花にも目を向けられる人です!だから・・・だから・・・」
アリアちゃんはポロポロと大きな涙を流し始めた。
「ごっ、ごめんね!!」
私は慌てて立ち上がりアリアちゃんを抱きしめた。
「那美お姉ちゃん・・・今日は願いが叶う日・・・なんだよ?だからね・・・お願い事を・・・言って?」
大きな目で私を見る。私はそっと心の奥底の願い事を口にしていた。
「お願い事・・・私は・・・我侭を一つ言っていいなら、あの人と・・・三剣くんと一緒に過ごしたいです・・・」
アリアちゃんは私の腕から離れると私の前でニコリと笑い手を胸の前で組んだ。
そしてゆっくりと目を瞑った。
それはまるで神聖なもののようで私は目が離せなかった。
暫くするとアリアちゃんは瞳を開いた。
「これで大丈夫。ねぇ、知ってる?クリスマスイブに降る雪は神様が皆の願いを叶えるため天使をつかわせているんだよ」
可愛い笑顔を見せると公園の外へ走っていってしまった。
「アリアちゃん!?」
アリアちゃんのいなくなったほうを見てるとチラチラと空から真っ白な雪が降ってきた。
そして、アリアちゃんの代わりに公園にやってきた人。
「三剣くん!?」
「おう。橘。先生に言伝預かってんだ」
やってきた三剣くんは制服に竹刀に胴着の入った袋を下げていた。多分部活の帰りだったんだろう。
「美術の野田先が何度電話しても橘が出ないからってさ。ちょうど会って橘の絵が入選されて今度展示会に出されることを伝えてくれって。すげーな、おめでとう」
三剣くんの笑顔と入選したことに嬉しくて涙が出そうになった。
「ありがとう・・・」
「入選した絵ってさ俺がモデルになった奴だろ?俺も観に行って良いか?」
「う・・・うん・・・」
地面に落ちていたスケッチブックがパラパラと風で捲れる。止まったページには三剣くんの笑顔。モデルを頼んだ時にこっそりデッサンしたものだった。
三剣くんがそれを見つめ私は慌てて拾った。
ス、ストーカーか変態だと思われたらどうしよう!!
最悪なイメージが頭をよぎる。だけど三剣くんの言葉はそんなものじゃなくて・・・
「あの、今の絵すげーな!一番良い笑顔だ!!あれさ!試合に勝ったときのだろ!?嬉しくてさ、橘にむけて笑ったんだぜ!」
屈託の無い笑顔と言葉にスケッチブックを落としそうになる。今、私に向けて笑ったって言わなかった?確かにこの絵は三剣くんがすごく良い笑顔してたから思わずスケッチしちゃったものだけど・・・
すると、三剣くんは少し頬を赤く染めた。
「あー、だってさ、俺橘のこと好きでさ・・・」
神様、これは夢ではないのでしょうか?夢なら覚めないでください。
三剣くんの表情を見てるにこれは夢じゃないらしい。
「で、でもマネージャーさんは三剣くんの彼女じゃないの?」
「あいつは幼馴染!あいつにはちゃんと彼氏いるしな」
そうなんだ・・・じゃあ、私も言って良いんだよね!?
スケッチブックを強く握り締め言葉を紡いだ。
「私もね、好きだよ。三剣くんのこと・・・」
「マジで!?うわぁ!!やっぱさっきアイツに願い言って良かったぜ!!」
ガッツポーズを決める三剣くん。
「ん?アイツって?」
「白いパーカーきたツバサって奴。いきなり現れてビビッたぜ」
それってなんか・・・
「私も白いコート着たアリアちゃんって子に背中押されたの」
「もしかしたらマジで天使だったのかもしれねーなー。だってさ・・・」
「「クリスマスイブに降る雪は神様が皆の願いを叶えるため天使をつかわせているんだよ」」
私たちは声を揃え同じことを言いお互いきょとんと顔を見合わせた後笑った。
アリアちゃんとツバサくんは本当に天使だったのかもしれない。
私たちは空を見上げ、降り続ける雪を静かに見つめていた。雪は白い天使の祈りのようにいつまでもいつまでも降り続いた。



後日展示会へ足を向けた私たち。
「うぉ!俺カッコイイ!!那美の目にはこういう風に俺が映ってたんだな」
「そうだよ。なんか恥ずかしいな。狼真くん早く違うところ行こうよ」
「まだ!!もうちょい見せろよ」
「はぁ・・・」
目の端にアリアちゃんらしき子が映り振り返る。
そこには誰もいなくて・・・
「どうした?」
「今アリアちゃんと男の子がいた気がしたんだけど・・・」
「ツバサじゃねぇ?きっと那美の絵、見に来たんだろ」
「そうかな・・・?」
そうだと良いな。
アリアちゃんとツバサくんがあの日私たちのことを祈ってくれたように今度は私たちががアリアちゃんとツバサくんの幸せを祈ろう。

終わり

あとがき
クリスマス小説です。高校一年のとき文芸部で出した作品の改良版。あの頃ワンピのゾロナミにはまってまして主人公と相手の名前をかなり無理矢理に使った覚えがあります。今回もその名残です(笑)
橘 那美(たちばな なみ)ちゃんと三剣 狼真(みつるぎ ろうま)くん。
天使ももともとは狼真君のほうには出てきませんでした〜。
那美ちゃんも美術部じゃなくもっと安直だったような・・・
今も安直なのは変わりませんが・・・
それでは、メリークリスマス!!

2006、12、水城由羅