大学に入って数日、心のどこかに異変を感じながら、過ごしていた。それが何なのか良くわからない。
わからないようにそれをきちんと見てこなかっただけなのかもしれない。今まで何もかもうまくいっていたはずなのに。
何なんだろう、あたしの中にある、何か小さな黒いものは。お願いだから、邪魔しないで。
これからも、うまくいくはずなの・・・。
うまくいかせるの!
「っ・・・。」
「どうしたの?涼香。」
友達があたしの異変を感じとり心配そうにあたしの顔を覗き込んで尋ねてきた。
「ん・・・?なんか、くらっとして胸もドキドキしてるし・・・。」
変だ・・・。
胸がドキドキして体が熱い。しかも、変な耳鳴りまで・・・。今までこんなこと一度も無かったのに、不安に襲われる。
やめて、怖いよ・・・。
「保健室行ってくれば?」
「うん・・・。」
とりあえず、あたしはかばんを持つと教室を出てゆっくりと保健室へ向かった。
あたしの中で歯車がゆっくり狂い始めているの?
あたしは、どうなってしまうんだろう。
「すみません。」
恐る恐るドアを開け中を覗き込む。
「どうしたの?」
出てきたのは、白衣を着た人のよさそうなおばちゃんだった。
「あの・・・」
理由を話すと、先生はひとまず座って、お茶を飲むよう勧めてくれた。
冷たいお茶が少しだけ心を安心させた。
先生はあたしの顔をじっと見ると話をきりだした。
「自律神経失調症って知ってる?」
その言葉にあたしはきょとんとし、首を横に振る。
「自律神経失調症・・・ですか?」
初めて聞く名前だった。
「うん。ストレスからくるんだけどね。そのせいで、自律神経のバランスが崩れて身体の調子が崩れちゃうの・・・。」
「ストレス・・・ですか?」
あたしはただ呆然と聞いていた。崖から突き落とされたような気分だった。
あたしがストレスに押しつぶされるなんて・・・情けない。
「東雲さんだったわね。学校の敷地内にカウンセリングルームがあるんだけど行ってみたら?今の時間なら空いてるし。」
「はぁ。」
あたしは、ただ頷いた。
だって、今のあたしは解決する術を持っていないから。
「場所はココの校舎の隣。」
「わかりました。」
あたしは落ち着くと保健室を出てカウンセリングルームへ向かった。今日の授業はもう無いし、良いか。
「こんにちは。」
少しだけ緊張しながら、扉を開けると優しそうな若い女の人がいた。
「こんにちは。浅海先生から聞いてるわ。私は工藤です。」
「あ、あたしは、東雲涼香です。」
慌てて挨拶すると工藤先生はクスッと笑いあたしに席を勧めた。
あたしはそこに座ると先生もノートと鉛筆を持つと横に座った。
「東雲さん、どうしたのかな?」
先生の裏表の無い優しい微笑みにあたしの心が一瞬ぐらついた。
「あたしは・・・あたしは・・・」
こんなはずじゃなかったのに・・・あたしは、ただ、いつも通りにやってきただけなのに。父さんにも、母さんにも頼らないで、嫌なことがあっても誰もにも八つ当たりはしないで、父さんや母さんや貴緒の愚痴を聞いて、いつもの大人な優しい、「東雲涼香」をやってきただけなのに・・・。
あたしは何がいけなかったの?
「う・・・あぁぁぁぁぁぁ・・・」
大きな声をあげて大粒の涙を流した。久しぶりだった。
先生はその間、黙ってあたしを見つめていた。
泣いている人を蔑んだりしないとても優しく温かい目。泣いている人間になんでそんな優しい目をしてくれるんだろう。
「ど・・・も・・・すみませんでした。」
落ち着くと先生に謝った。
「どうして謝るの?泣きたいときに泣けばいいのよ。」
「・・・はい。」
あたしは、大きくなってから泣いたことが無い、否泣けなかった。
泣くと親から怪訝な目で見られた。弟のまえで泣くわけにもいかなかった。
泣くなんて恥ずかしい、みとっもないと思うようになった。
大きくなって泣くなんて駄目な子だって。
あたしは強い子でいなくちゃいけない。
あたしは、泣いても良いんですか?
泣いても誰も蔑みませんか?恥ずかしくもみっともなくもないですか?
「先生・・・あたし、どうしてこうなったのか、わからないんです。普段やってきたことをそのままやってきただけなのにどうしてこうなるのか・・・」
「きっと、知らない間にストレスをためすぎちゃったんだね。普段やってきたことって何かしら?きいても良い?」
ストレス・・・。
何であたしがストレスを溜めなきゃならなかったんだろう。あたしは大丈夫なのに・・・。
「先生・・・あたし、少し自分について考えてみてもいいですか?あたし、本当に全然わからないんです」
「良いわよ。またいつでもいらっしゃい。」
「はい。」
あたしは部屋を出た。
こんなことになったって言ったら、皆なんて言うんだろう。
笑い飛ばす?それとも・・・怒る?
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