数ヶ月、あまり泣かなくなったもののカウンセリングは受けていたし体も調子が悪くなったり良くなったりだった。
カウンセリングではいつも工藤先生が優しく話を聞いてくれた。
こればかりは心の問題だからいつ治るという期限は無いらしい。もしかしたら一ヵ月後かもしれないし、五年先かもしれない。

貴緒には、きちんと話した。二個下の貴緒は親身になって聞いてくれた。あたしが買った自律神経関係の本も貴緒は一生懸命読んでいた。
「ねぇちゃん。俺は味方だよ。だから、俺には隠さないでよ。」
「ごめんね、貴緒。こんなお姉ちゃんで・・・。」
「ばぁか、何言ってんだよ。ねぇちゃんは普段からちゃんとやってきたんだぜ。少なくとも俺は知ってる。俺はいつだってねぇちゃんを見てきたんだから。」
普段は、生意気であたしの言うことなんか聞かない貴緒。
けど、あたしのことを実はしっかり見ていてくれた人なのかもしれない。
一人でも理解してくれる家族がいてとても気が安らいだ。
その間、父さんにも、ばれ「運動不足」だと言われ毎日散歩に出るようになった。

夏休み中に新たな出会いがあった。
友達の紹介でセラピストさんを知った。
アロマのセラピストさんだった。
あたしのことを親身になって聞いてくれた。
今まで、一つのことにしか熱心に興味を持てなかったあたしにとって新しく興味を持てた一つだった。
アロマテラピーにバッチフラワーレメディ。
友達は、ヒプノセラピーというのも教えてくれた。
自立神経失調症になってから新たに興味が持てるものを持った。
きっと、そのままだったらセラピーにも興味が持てなかったし、セラピストさんとの出会いも無かっただろう。
少しずつ良くなっていったけど、動悸になっていたこととか少し忘れられなくて電車とか乗ったり遠いところに行くのに多少ドキドキして微妙に避けるようになっていた。
そのときはまだ、蓋をしていた。
本当のことを・・・。
二年生に上がる頃には良くなり始めバイトを始めた。
新しいプレッシャー、接客。早退が多くて皆に迷惑をかけて、だんだん行きたくなくなった。
それでも、行かなくちゃ、頑張んなくちゃ、最後までいなくちゃって必死で奮い立たせて、頑張った。
「う〜ん。」
「どうしたの?」
バイトの友達に聞かれあたしは焦って首を横に振った。
「なんでもない、なんでもないよ!!」
ホントは少しだけクラクラしてた。
でも、今日はダメ!なんとしてでも最後までいるんだから。
「レジ入んなきゃ。」
友達が入り、サポートをする。だんだんお客さんが増えてきてもう一台のレジを開けあたしが一人でレジをすることになった。
人が列を作る。一人でレジ、サッカーをこなす。
まだ、慣れていないせいか迷う、失敗しそうになる。
だんだん、お客さんがイライラしているんじゃないかって感じるようになった。
列も終盤に近づいた頃、足が震え始めた。
手もブルブルと震え、じょじょに、苦しくなっていく呼吸。
タスケテ・・・
喋るのもままならなくなって限界を感じたときやっとのことで出た言葉。
「変わってください。」
店長は、そのまま早退させてくれた。
自転車に乗り風に吹かれているとポツリと水滴が頬に当たった。雨かと思い、空を見上げたけど空はきれいな夕焼け空だった。
なんだろう。
一つ、また一つとあたしの頬に当たる。
ゆっくりと手で頬に触れる。
やっと、わかった。
涙だったんだ・・・。
きちんと仕事を全うできない自分に対して悔しくてずっとずっと、泣いていたんだ。
悔しいよ、腹立つよ、なんで、あたしこうなの?
そのまま、涙をこらえて家に帰ると自分の部屋に飛び込んだ。
「・・・っく・・・ひっ・・・」
部屋の片隅で声を押し殺すように泣く。
「涼香、何泣いてんのよ。どこか痛いの?」
母さんが入ってくる。
「あ、あのね・・・」
恐る恐る話す。
「そう、今は何とも無いのね。なら良いわ。でもね、涼香、あまりこうだと向こうに迷惑かかるからやめなさいよ。」
きっぱりそういうと母さんは出て行った。
あたしも、わかってた。そんなこと。
だから、やめようかなって思ってた。
父さんや母さんに言ったら「辞めたらダメだ」って言われそうな気がして言えなかった。
それに、去年の「東雲涼香」に戻ってしまいそうだった。
そのバイトも辞めてしまった。

あたし、何も変わってないじゃない!
いろいろ考えても試行錯誤しても成長してない!変わってない。
こんなんじゃ全然ダメ。
昔みたいに戻らなくちゃ!
今度は両親に「就職ができない」と言われた。そんなこと、自分自身が一番わかってる。自分だって就職できないんじゃないか。ってずっと思っていた。あたしはこのまま駄目な子になってしまうのではないか、と・・・。
しばらくすると、父さんはあたしに聞いた。
「涼香、なぜまたバイトを始めないんだ?」
あたしはずっと黙ってた。
正座した足の上に両手の拳を力強く握って、潤んだ瞳を見せないように俯いて口をきつく真一文字にぎゅっと閉じて聞いていた。
あたしの本音を言えるわけなんて無かった。
告げたら「甘えている!」と怒られそうな気がして。
あたしは昔から自分の本音を言わなかった。
言葉は凶器だから。
他人に対しても自分に対しても凶器となる諸刃の剣。
いつだって、怒られているときはただ、黙ってきた。
黙っていれば、怒られている時間が短くて済むし、余計に怒らすことも無いことをあたしは知っている。
あたしがもし、正しいことを言っても聞き入れてもらえない、もっと怒らせるって事ぐらい小さな子供の頃からわかっいたことだから。
今回の事だって働くことが面倒くさいわけじゃない。
親のすねを一生かじって生きていこうなんて気持ちは、毛頭無かった。
だってあたしは、独り立ちしたいって思っている。
あたしは、何も考えていない危なっかしい子供に見えるかもしれない。
だけど、本当はもっと前から、自分の意見持ってるよ。
それが、甘いものかもしれないけど。
頭ごなしの怒らないで、「子供だから」って頭から拒否しないで、聞いて欲しい。
あたしだって、働きたい。稼ぎたい。
そしたら、欲しい物だって買える。父さんや母さんにだってお金の面で苦労をかけることはなくなる。
だけど、一回そうなってしまったからまた一歩踏み出すのが怖いんだ。
スタートラインで見えない道に怯えてしまっているの。誰にもわからない未来に怯えてる。
あたしが今欲しいものはお金じゃ買えないもっと大事なもの。
それが何なのか確かめたいんだ。
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